殿堂入り&6周年おめでとう!!(大遅刻)
「メリバメロル」という曲名ですが、実は略称で正しくは「メリーバッドエンドガールズインザミッドナイトメトロポールバックストリート」が曲名になります。覚えて帰ってください。
曲の展開としては、
イントロ(0:00~0:28)→Aメロ(0:28~0:42)→Bメロ(0:42~0:58)→1サビ(0:58~1:28)→間奏1(1:28~1:42)→間奏2(1:42~1:56)→Cメロ(1:56~2:12)→Bメロ(発展形)(2:12~2:27)→Dメロ(2:27~2:41)→Eメロ(2:41~2:54)→Fメロ(2:55~3:09)→ラスサビ(3:09~3:55)→Dメロ(3:55~4:10)→Eメロ(4:10~4:25)→アウトロ(4:25~4:44)
という、ポップスとして考えるにはかなり異色の構成となっています。
まず耳を引くのが、イントロの変拍子。8/8と7/8が交互に続きます。なお、冒頭から聴こえる繊細かつリズミカルなシンセ音はほぼ全編にわたって鳴り続けていて、この細かく刻んだリズムが変拍子により若干変化するのが聴きどころの一つです。「どこが変拍子なの?」という方は、このシンセの音とリズムを注意深く聴いていたら気付くきっかけになるかもしれません。
このインパクトあるイントロを聴くと「リズミカルな曲だなあ」という感想になるのですが、事実この後もリズムが魅せる魅せる。それは単にドラムがよく動くというだけでなく(もちろんその要素もあるのですが)、曲中で用いられる様々な電子音や効果音、それらが自我を持ってリズムを刻んでいるような。そしてそのリズム達の上をボーカルがさらに自由に闊歩することで、全体で見たときにいろいろなキメだったり、音ハメだったりといったリズムが複雑に絡み合って聴こえるんです。間奏2でドラムが大きくテンポ感を落としたリズムにしたり、8拍子の直後に1拍挟んでブレイクを差し込んだり、曲が盛り上がってきたなと思ったら高音の通った綺麗な音とグリッチ感ある低音が左右から挟撃してきたり。1サビ直後では拍感を失わせるような8bitサウンド、アコギ、着信音。3拍子の部分では元気にホイッスルが鳴ったりもして。『冷凍都市の煌めきが』の部分ではボーカルが裏拍を刻んでいますし、ミクさんが「フゥ、フゥー!」と合いの手を入れている箇所もあります。意識し始めたら新しい音とリズムがどんどん増えていくようで、聴けば聴くほど楽しめる曲です。
"リズムの多重構造"と総括すると、変拍子も相まってとても複雑で難解な曲のように思われるのですが、この曲のすごいところはそんな中でもスッと聴いてしまえるような親しみやすさにあります。最初に「ポップスとして考えるにはかなり異色の構成」と言いましたが、にもかかわらずこの曲には数回通して聴けば歌えてしまえるんじゃないかというくらいの聴きやすさがあるところが印象的です。その秘密は歌メロの恐ろしいまでのキャッチーさだったり、AメロBメロといったパートごとのメロディの役割分担が非常に明確な点がまず挙げられるのではないでしょうか。役割と言うと変な言い方かもしれませんが、ここはミクの合いの手が入るパート、ここパートはポエトリー気味に語るように歌うパート、ここは韻を踏みまくるパートというように、それぞれのパートが独立した特徴を持っているんです。先ほど書いた"裏拍の歌メロ"や3拍子ももちろん特徴。
それだけではありません。曲中の「リフレイン」が、この曲の親しみやすさを強めているもうひとつの要素です。具体例を挙げましょう。イントロのリードメロディを聴いてほしいのですが、なんとこの部分サビ後半とEメロで対旋律として登場します(余談ですが、イントロのリードメロディがサビ後半にも登場するのはかなり珍しいです。サビの後にくる間奏でイントロと同じメロディになる、つまり同じメロディが連続して続く可能性があるため)。またサビ前半の対旋律ですが、サビ後半の対旋律つまりイントロのリードメロディを少しシンプルにしたようなメロディになっており、こちらはDメロで同じく対旋律として再登場します。DメロとEメロ、そしてサビは曲中で2回流れるため、この相似したメロディは合わせて6回登場することになります。正確に言うならイントロとアウトロでもこのメロディが使われているため、計8回ですね。冒頭の私のパート分けに則ると、8/13パートとなります。ここまでくると曲中の大部分で登場すると言ってよいでしょう。数字だけ見るとさすがにくどいんじゃないか?という気持ちになりますが、サビ前半で流れる方のメロディは後半で流れる方と厳密なメロディは異なりますし、音色も主張の強くない丸い音になっています。通して聴いているとそこまで目立つことなく、意識して聴いた上でこれらのメロディを比較することで初めて相関性が見えてくるくらいの距離感です。この2つのメロディを巧みに織り交ぜて繰り返すことで、多様に展開する曲構成に難解さを抱かせることなく自然に聴かせることに成功している。私はそう感じます。
と、ここまでが音の話をしましたが、この曲は歌詞もすごく魅力的なんです。リズミカルなボーカルやAメロの『みんなさんきゅーありがとね』で明るい曲と思いそうになりますが、これは"メリーバッドエンドガールズ"の曲です。それを考慮すると、『曖昧な救済はいらないんだ』『全てを諦めていたって、』といった不穏な言葉が並んでいることがわかります。加えて映像の歌詞以外の字幕では『自分コソガ此ノ世デイチバン不幸セナ人間ダト思ヒデモシナケレバ、気ガ狂ツテシマヒサウナノ。』と、こちらもまた不穏。さらに『見慣れない服を着ている泣き顔の君が立っていたんだ』『どうか来世でも、好きでいて』からは、死の匂いを色濃く感じます(見慣れない服=喪服)。この底知れない焦燥感、無気力感、絶望を強く感じる歌詞を自分の中で咀嚼するために、一瞬表示される字幕をきちんと追うために、つい何度も再生したくなる魔力がこの曲にはあるんです。
個人的に好きなのは『全てを諦めていたって、』『それでも生きてくんだろうな』『急がなくていいよ、なんて言葉が』『胸に刺さって動けないの』『背中押されてしまったら?』『そっか それはそれでいいか、なんて思ったりしてさ』という一連の歌詞です。生きることにあまりにも消極的な姿勢、些細なきっかけで容易く天秤が傾いてしまうような諦念が悲しくも胸を打ちます。
最後に。映像では二人の女の子が登場します。一方は溌剌とした笑顔を見せており、もう一方はおとなしい文学少女といった佇まいですね。そんな二人ですが、歌詞における"君"はどっちで、"わたし"はどっちだと思いますか??もしかしたら人によって激しく派閥が分かれるかもしれませんね。そんな目線でこの曲を聴き直してみると、この曲の世界観にさらに深く没入できると思います。