レビュー詳細

本作はシンガーソングライターであるシユイに書き下ろした曲の初音ミク歌唱バージョンです。私は先にシユイ歌唱の方を聴いていたのですが、そちらは力強い歌い方の影響なのかどこかシリアスというか、儚さを匂わせるような印象でした。対して初音ミク歌唱のこちらは、ひたすらに透明感が押し出されているように感じます。ボーカルの違いでこうまで感じ方が変わるんだなあと思ったのが第一印象です。

もうひとつ感じたのが、この曲はドラムの展開作りがとても綺麗だなと!派手なキメがあるタイプの曲ではないのですが、たとえば2番Bメロではハネるリズムという変化球を入れてきたところを、一瞬静かになるところでドラムのフィルを挟むことでリズムを一度仕切り直す印象を与えています(1:50~1:52)。2サビの最後ではフィルが8連打ではなく6連打と数を少なくすることでスピード感を落とし、その先のCメロでテンションを落ち着けていくことを示唆しています(2:20~2:21)。ラスサビの最後は2番Bメロと同様で、ビルドアップのテンポを下げていくことでその後が静かになるパートであると示しています(3:04~3:09)。このように、ドラムに注目して聴くことで先の展開をある程度意識付けるようになっている場所が多く見受けられます。
ドラムだけが曲展開を作っていると言いたいのではありません。たとえば先ほど触れた2番Bメロと2サビ最後でも言えることですが、他の楽器の動きによって展開への印象をより強めている場所はもちろんあります。2番Bメロは他の楽器の演奏を止める、つまりブレイクしている部分。2サビ最後はボーカルのメロディを1サビから変化させて音程を上げて終わることで、次にどんなパートが来るのかという期待を高めています。この曲自体はドラムが曲を先行しているという感覚が特に強いわけではありません。しかし曲のリズムを最もわかりやすい形でリスナーに提示するドラムという楽器が、他の複数の楽器との演奏の中で「この先どうノればいいか」をそっと誘導するガイドラインの役割を果たしていることは確かです。
むしろ自ら前に出ることをあまりせず縁の下で曲の骨子を支える様子は、かなり職人気質なドラムだなと私は思います。ドラムを担当した清水遼大さんは仕事人ドラマーです。

Bメロとサビ、サビとCメロ、ラスサビとアウトロといったセクションの継ぎ目で用いられる"フィルイン"。それがしっかり勘所を押さえたフレーズであるからこそ、初めて聴く人でもすぐにリズムに乗れてしまえるような、流麗な進行を形作っているんです。
ちなみに、個人的に好きなのは落ちサビの裏拍でハイハットを叩いている部分です(2:42~2:47)。1サビや2サビの最初ではスネアを連打する疾走感たっぷりなフレーズであったのとは対照的に、ここではスネアを(フィル部分以外で)一切叩かないところが曲の展開としてばっちりハマっているし、何よりその後に来るラスサビの盛り上がりに向けた"タメ"となっているのが特に気に入っています。

#VOCAROCK#初音ミク#爽やか#長文レビュー

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