レビュー詳細

コンピアルバム『合成音声のゆくえ』収録の本作は、一発で記憶に残るキャッチーさと、語感をベースに編み出す遊び心を凝縮したファンクポップ。そのノリの良さに嵌れば最後、聴く度に新鮮に映るフレーズの沼に五感を囚われる。
本作の歌詞を「合成音声のゆくえ 歌詞」等で検索の上眺めて頂きたい。その言葉の並びはシュールさを憶えてしまうほど、常に理解の一歩先を行くような文脈のもつれた詩の数々を構築しているが、本作のメロディーに乗せた瞬間、これらの言葉は驚くほどすんなりと耳に滑り込む、完成されたフレーズとして意思を持って躍動するのだ。この瞬間は宛らパズルのピースが嵌る瞬間のような、意識の外で巻き起こる衝撃の音楽体験である。
また、「捨て難い折り鶴にも活路を見出せたり」のビートからズラした譜割りや、ラスサビ入り「その嫌い、本当は気があるんじゃない?」の遅れるようなテンポ変化も、本作の非常に強力なフックとなる要素である。終始ノリの良い展開の中で急速にグルーブ感を変化させるアプローチは、キャッチーさの中に常に新鮮味を供給するスパイスとなっており、本作の圧倒的なデザイン性を裏付ける象徴的なフレーズである。

2023.07.02

レビュアー:苔氏

#VOCALOID#ファンク#中毒性#初音ミク#長文レビュー

SHARE